第10章 宮城遠征
「先輩たちもどうっすか?ポッキー。」
後ろから犬岡が顔を出して、お菓子を勧めてくれる。
「おいおい、遠足じゃねえんだぞ。」
そう言いながらも黒尾は何本かそれを手にする。
「サンキュー。」
衛輔も遠慮なくそれを口に運んだ。
「あの、黒尾さん。ひとつ質問良いっすか。」
「なに?」
犬岡が少し真面目な顔をするので思わず衛輔もなんだろうと耳を傾ける。
「うちって、部活内恋愛は禁止なんですか?」
「え、いや別に。禁止ってことはないんじゃないの。」
少々面食らったものの、黒尾はそう答えてやる。隣にいる衛輔のことも少し気にして、なあ、と話をふる。
「は?俺は知らねえよ。部長が良いって言うなら良いんじゃねえの。」
明らかに不機嫌な声を出す衛輔。
「まあ、そういう訳だから別に禁止じゃないってことで。」
黒尾がそう結論付けると、犬岡はぱっと笑顔になる。
「そうですか。よかった!ありがとうございました。」
後ろの席に戻って行った彼を見送ってから、黒尾は衛輔に再度声をかける。
「禁止って言っといたほうがよかった?」
「だから、なんで俺にいちいち聞くんだよ。確認するなら副主将の海だろうが。」
足を組んでそっぽを向く衛輔。
「いや、でもさ、部活内恋愛つったら、うち女子は一人しかいないし。」
「わかってるよ。」
衛輔の視線の先には、やはり凪沙の姿があった。
「なんでやっくんイライラしてんの。犬岡は俺と違って純粋で良い奴だったんじゃないの。」
「お前ほんとうるせー。俺ちょっと寝るから話しかけんな。」
「はいはい。」
おもしろそうにニヤニヤとしながら、黒尾は窓の外に目を向けて独り言をつぶやいた。
「俺としてはみんな仲良くしてくれればなんでも良いけどね。」