第10章 宮城遠征
「うおおお新幹線!新幹線ですよ俺初めてです!!」
「犬岡うるさい。」
「犬岡おちつけ。」
「犬岡おすわり。」
東京駅新幹線ホームにて、はしゃぐ犬岡を先輩の面々が冷ややかに躾ける。
「おすわりはさすがにひどくないですか?ねえ、凪沙さん。
あ、重そうですねそれ持ちますよ。」
新幹線に乗り込もうとして荷物に四苦八苦している凪沙のそれを犬岡はさっと持ち上げた。
「ありがとう。」
「全然っす。マネージャーって荷物多くて大変ですもんね。」
二人が仲良く車内に入って行くのを後ろから眺めながら、黒尾は隣にいた衛輔を見遣る。
「やっくん、あれいいの?」
「は?なにがだよ。」
「いや、別にやっくんがいいなら良いんだけどね。」
意味ありげに黒尾は頷いてみせた。
「犬岡は黒尾と違って純粋だし良い奴だからな。」
しれっと言い放って衛輔は頭上の座席番号を確認した。俺たちここだ。とつぶやいて荷物を下ろす。
「俺、やっくんになにかしたっけ?」
黒尾も隣の席に座る。
(凪沙は……研磨の隣か。まあ大丈夫かな、あいつら最近仲よさそうだし。)
斜め前に座る凪沙の背中を衛輔はぼうっと眺めた。
後ろの席の犬岡に静かにしろ、と注意していた黒尾がそれに気づいて声をかける。
「やっくん、凪沙ちゃんのこと見すぎ。シスコン?」
「お前には言われたくないな。研磨のこと気にしすぎのくせに。」
「ねえ、夜久は俺のこと嫌いなの?」
泣くふりまでしてくる黒尾を放置して、衛輔はスマホをいじりはじめた。