第10章 宮城遠征
(ほんとに、キスしたらどうなるかな……。)
一瞬そんなことを考える。手を伸ばして、優しくその頬に触れてから、
「バカなこと言ってねえで、起きろ!」
きゅっとつねると、凪沙は痛がって抵抗した。
「いたいよー。」
「そういうこと、他の男にすんなよ。バレー部の連中にもダメだからな!」
「大丈夫。黒尾さんには絶対しないから。」
凪沙はようやく起き上がって眠そうに伸びをした。
「黒尾は当然ダメだけど、黒尾以外でもダメだからな。」
「まあ、しないけど。なに必死になってんの。」
冗談通じないなあと笑う凪沙。
「もう少し警戒心持ってくれよ。お前かわいいんだからさ。」
衛輔にそう言われると、凪沙は不満そうな表情になる。
「男の子ってさー、みんなそうだよね。かわいいかわいいって軽く言ってくるくせに、
本気じゃないっていうか。みんな結局他に一番大事な女の子がいるんだよ。」
「はあ?なに怒ってんだよ」
今度は衛輔が先ほどの凪沙の台詞をマネした。
「べっつにー。衛輔もそうやって私の世話焼いたりかわいいかわいい言ってても、
結局別の女の子のことが一番になるんだろうなって思っただけ。衛輔モテるらしいし。」
凪沙は頬を膨らませて拗ねてみせるが、その様子はただへそを曲げているだけではないということが衛輔には分かった。