第7章 あえかな君
シリウス・ブラックとは、魔法族の中でも有数の純血一族であるブラック家現当主の長男なのだという。
ブラック家は代々スリザリンを出ているのだが、シリウスだけはグリフィンドールに入ったということで"大問題"となった上、ホグワーツ入学直後からさまざまなイタズラに関わっているとのこと、ブラック家に相応しい整った顔であることなどから知らない者はいないくらいの有名人であった。
もちろん、マグルの新入生を除いてであるが。
「あぁ…なるほど。だから知らないって言ったらビックリしてたのね」
この学校の人は、というのか、外国の人は、というのかはわからないが、有名であることはとにかくステータスのようだった。
(名前が知られてて当たり前って、何か変な感じ。まるで芸能人みたい)
「で? どうしてそんな重要なこと黙ってたの?」
「えっと…」
キャリー達には余計な心配をかけまいと、薬を飲んで気分が悪くなってふらふらしていたところをセブルスに助けてもらったのだ、と話したのにダモクレスのせいで台無しである。
「あの人、スリザリンを悪く言ったから」
スリザリンの人間は全て悪、汚れている…シリウス・ブラックはそう思っているように見えた。
「こんな話、聞いても気分が悪くなるだけでしょ?」
私たちスリザリンなのよ、とため息をつくキラにキャリーとアニーは目を見合わせる。
「キラ…お気遣いありがとう。嬉しいわ。でもね、スリザリンが嫌われているのは知ってるし、気にしてないわ」
「キラの方が辛かったでしょう…」
スリザリンの中では闇の魔術に傾倒する者は多い。
純血を重んじる伝統がイコール闇に結びつくわけではないが、純血を大切に思うがゆえに人自身の尊厳は失われていると言っても過言ではない。
当人の意志などお構いなく血筋を重視する婚姻を繰り返していく。
貴族であっても自由などないのだ。
血筋や家名に縛られ、心が歪つになっていく。
それが天命と受け入れられる者もいれば、そうではなく死ぬまで抗おうとする者もいる。
閉ざされた狭い世界の中で生きていくことは、とても難しいことであった。
行く末は生まれたときから決まっているのだ。
だからこそ、スリザリンは同胞想いなのである。
小さな世界でも生きていくために。