第5章 慕情
つまり、こういうことだ。
魔法薬学で、材料として虫や動物の臓物、目などを切り刻まなくてはならないとき。
手を汚さず、作業台に飛び散らせないよう、瓶に材料をつめて蓋をした状態で、中のものだけを先ほどのような魔法で刻むことができないだろか、と。
そうすれば材料も無駄にならないし、気持ち悪い思いをするのも短時間で済むのではないか、とキラは考えたのだ。
「なるほどー。それは便利かも!」
「今の呪文だと、瓶ごとバラバラになっちゃいますよね」
あ、でもあれか、外でタランチュラや大ムカデを見かけたらそれで攻撃すれば、体の一部だけ持って帰れますね!とキラはニコニコしながら話す。
その様子に魔法薬学に傾倒し始めたな…とセブルスは薄く笑みを浮かべる。
ダモクレスはもちろんだが、セブルスも魔法薬学は得意なのだ。
「確かに、魔法薬学では危険な生物さえも材料にしなきゃいけないんだよねー」
俺も使えるようになった方がいいかなー、と言いながら、ダモクレスはセブルスをチラチラと見る。
「…お前には教えん。自分でなんとかするんだな」
「セブルス冷たーい」
「何とでも言え」
ぶーぶー言うダモクレスを無視して、セブルスはキラに向き直る。
「瓶の中のものだけ、と言ったな」
「はい…やっぱり、無理、でしょうか」
キラにがっかりされるのは非常に癪だった。
「いや…そんなことはない」
「本当ですか?」
キラの目が輝く。
「あぁ。できるはずだ。ただ…やはり、お前にはまだ早いだろうな」
「そうですか…」
見るからに落ち込むキラであったが、すぐに顔を上げて
言った。
「できるようになるまで、ご指導お願いできますか?」
「…二年では難しいと思うがな…」
「セブルス、卒業しないで下さい」
「無茶を言うな」
「ですよね…」
それまで必死でがんばります、とキラは微笑んだ。
真っ直ぐ向けられる尊敬の念に応えたい。
セブルスは純粋にそう思った。
こうしてセブルスはキラの素直な反応に自尊心をくすぐられ、益々魔法の研究、開発に没頭していった。
幼い頃のリリーとキラを重ねることで、光を失ったセブルスの世界は少しずつ明るくなっていったのだ。