第4章 近づく距離
キラ・ミズキと出会ったのは昨日のことだった。
彼女も温室でバラを育てると言っていたので、また近いうちに会うだろうと思っていたのだが、それが翌日のこととは。
セブルスは朝食の前に一度移し変えた百合の様子を見に来ただけだったのだが、そこには先客がいた。
「あ、おはようございます、セブルス」
「…おはよう」
「百合、心配ですか?」
キラの気遣わしげな声に、セブルスは無言で肯定を示した。
「お前はどうしてここに?」
「…実は、私もちょっと心配で」
百合って、自分で植えたことないんですよ…とキラは言う。
「セブルスは百合がお好きなんですね」
「…そう、だな」
"You like Lily very much,don't you?"
その言葉に、セブルスはドキリとする。
心の内を読まれたようで。
そして、躊躇いながらもついて出たのは。
"Yes...I Love Lily."
これまで、決して口にしなかった言葉。
今、ここでなら許されるだろうか。
セブルスはエメラルドグリーンの瞳を見つめた。
その瞳は、ぱちぱちと瞬きをしてセブルスを見つめ返し、彼を映す。
「…セブルス?」
目の前にいるのは、赤毛ではなく黒髪の少女だった。
「いや…なんでもない」
キラをリリーと重ねてしまう自分のなんと浅ましいことか。
セブルスはぎゅっと眉間に皺を寄せ、キラに背を向けた。
「先に戻る」
その場から逃げるようにセブルスは足早に温室を後にした。
背後で、キラが小さく名前を呼んだことに気づかない振りをして。