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【HP】月下美人

第16章 追いかけたい


 硬そうな褥。
 それはセブルスの幼い頃の記憶を呼び起こす。
 彼が生まれ育ったスピナーズエンドの家は、お世辞にも普通の家とは言えなかった。
 ボロ小屋、というのが正しいかもしれない。
 そんな彼の部屋には、小さな本棚と机、そしてギシギシと今にも壊れそうな音を立てるベッドがある。
 そのベッドには薄っぺらいマットしか載っていないので、中々に硬い寝床であった。
 ホグワーツに来て初めて、セブルスは柔らかいスプリングの効いたベッドで眠りについた。
 誰かの言い争う声も、何かが壊れる音もしない。
 リリーと会うまでは、彼の世界はモノクロで。
 彼女と初めて会ったその日から、ほんの少し色がついた。
 燃えるような赤。
 透き通るような緑。
 それでも、夜になれば硬いベッドの上に戻るしかない。
 眠れば朝になる。
 眠らなければ、中々明けない夜に心が沈む。
 あの頃は、必死で目を閉じていた。

(硬い寝床が好きな人間はいない)
 自分だけじゃない。
 セブルスはそんなことを思いながら、カウチに身を沈める。
 キラの寝顔を見ていると、何だか自分まで眠くなってきた。
(最近また寝不足だからな…)
 今ここで眠ることができるのなら、そうすべきだ。
 セブルスは心配そうに自分を見上げていたキラを思い出しながら、瞳を閉じた。







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