第14章 アプリコットの夢
目が覚めた。
暗い部屋の中、水中生物の起こした波が部屋の窓を打つ音だけが響いている。
「っはぁ…」
息を止めていたのか、呼吸を荒く繰り返す。
部屋の明かりは消えている。
しかし、波打つ度にわずかに水面から出る窓の上部から差し込む月明かりが、天蓋の緑色のカーテンをチラチラと照らした。
「っ…」
セブルスは条件反射のように、手のひらで顔を覆った。
やっと少し、眠れたかと思ったのに。
誇りのように身に着けていたスリザリンのシンボルカラーが憎かった。
緑は好きな色だったはずなのに、そのせいで落ち着かない。
あの光が思い出されて、頭から離れない。
忘れるな、心に刻め、そう言っているのかもしれない。
キシ、とベッドが小さな音を立てる。
こうなってはもう眠れない、とセブルスは体を起こした。
無言呪文で小さな明かりを灯す。
ルームメイトはしっかりとカーテンを閉めているため、少々明るくても問題はない。
枕元に置いた本を一つ手に取り、ページをめくる。
眠気が完全にどこかへ行ってしまったら勉強机に向かう。
それが夏休みが明けてからの日課になってしまった。
積み上げられた羊皮紙の束に目をやる。
その内容は、不老不死に関する自分なりのレポートと、賢者の石に関する論文のまとめ。
それから、自分に課せられた使命を達成するための殴り書きだった。
夏休み、一旦はスピナーズエンドの自宅へ戻ったもののルシウスからすぐに呼び出しがかかった。
『君には闇の魔術に対する防衛術の教職についてもらいたい』
セブルスは突然のことに心底驚いた。
自分は、死喰い人になるためにここに居るというのに。
『子どもを手中に収めるのだ』
それはつまり…人質ということ。
穢れた血を排除するための手段の一つ。
この教科ではお互いに魔法を掛け合うこともある。
失敗して怪我をすることはよくあることだが、それが故意のものだとしたら――。
『君の成績であれば、必要な条件は十分であろう。父にも推薦してもらう』
ルシウスの父はホグワーツの理事長をしていた。
推薦状があれば、就職はぐっとしやすくなるだろう。
しかし、なぜ自分が?
セブルスは口にこそ出さなかったが、ルシウスには十分伝わった。