第11章 Dの道
「でもいつかキラの国に行ってみたいわ」
「うん。SAKURA、綺麗だったよね…」
「ぜひ見て欲しいな。でも桜の季節は4月だから、ホグワーツにいる間は難しいかなぁ」
「あら、残念ね。夏の間は何か特別なイベントはないの?」
キャリーと共にアニーも身を乗り出してくるので、キラはうーん、と考えながら幾つか口にする。
「花火、蛍、夜店、盆踊り…あと何だろうなぁ…」
瞼の裏に、耳の奥に蘇ってくる。
強い日差しにアスファルトから立ち上る陽炎と、ミンミン蝉の鳴き声。
むっとした張り付く湿気と、時折吹く風の心地よさ。
軒先に揺れる風鈴の音色が涼やかに響く。
日が落ちて、夜に聞こえてくるのは虫と蛙の穏やかな合唱。
蚊帳の中から開けっ放しの縁側の外に見える空を見上げながら布団に寝そべっていた。
そして、ポンッと音がしてあたり一面に広がる優雅な甘い香り――。
思い出した。
『月下美人の香りだ…』
すっかり忘れていた。
あの上品な香りは、祖母が大切に育てている月下美人という花の芳香だ。
夏の夜に一度、多くて二度ほどしか咲かない美しい真っ白な花だった。
「キラ、どうしたの?」
「あ、うぅん…なんでもないよ。日本の夏といえば、やっぱり花火かな」
「Fireworks?」
「うん。とっても綺麗でね…夜空に大輪の花が咲いたみたいになるの。打ち上げる音と弾ける音がして、それを聞くと夏だ!!って感じるよ」
「まぁ。それならなおさら、行ってみたいわね」
いつかきっと、夏休みに三人で日本の花火を見ることを約束した。