第11章 Dの道
7月になったら日本に帰れる。
それがとても待ち遠しい。
今度ホグワーツに戻ってくるときは、カップラーメンをしこたまトランクに詰め込んでやろうと思っている。
味噌汁もそういうインスタントがあればいいのに…とキラはため息をつきながら、例の人の視線の先を辿った。
今日も今日とて、セブルスはグリフィンドールの方を見ているようだった。
ふと見えたその顔に、キラは苦笑する。
(見つめてるんだろうけど…どう考えても睨んでる…)
眉間に皺をぎゅうぎゅうに寄せて見ているのは、いつもの人。
(あれ…あの人…)
ジェームズの隣で体を縮めるようにして座っていたのは顔色の悪い彼。
以前見たときよりは随分血色が良いような気もするが、何故か周りを異様に気にしているようで、俯きながらも誰かが後ろを通る度に体をビクつかせていた。
(…………)
「――ねぇキラ、聞いてる?」
キラはほんの少し首を傾げたが、キャリーに話しかけられて視線を彼女に向けた。
「あ…ごめん、なんて?」
「んもう! 夏休みのことよ!」
「夏休み? まだ春にもなってないのに??」
随分先のことだ、と驚くキラにキャリーは目を丸くする。
「ロングバケーションは夏しかないのよ?! 今から計画を立てないで一体いつ立てるって言うの? ねぇアニー」
同意を求められてアニーは首振り人形のように何度も頷いた。
ホグワーツの長期休暇といえば年度終わりの夏、7月2日から9月30日までの三ヶ月間。
クリスマス休暇の約一週間は長期休暇とは言えないようだ。
キラとしては三ヶ月も一気に休むより、日本のようにちょこちょこ休みがある方がいいのはないかと思う。
「三ヶ月を無駄に過ごすわけには行かないわ。大いに楽しまなきゃ!」
キャリーはそう言って羊皮紙に夏のスケジュールを書き出し始めた。
(三ヶ月間の予定かぁ…確かに時間があり過ぎて持て余すかも…)
「キラは修了式が終わったらすぐに日本に帰るの…?」
「私は――」
アニーの質問に答えようとしたとき、大広間の扉が開いてふくろう便が頭上を飛び交い始めた。