第3章 水を乞いて酒を得る
こんなに自然に握手が出来る人ってそうそういないな・・でもこの手って、どうしたらいいの?このままなわけないよね?
ぐるぐると軽くパニックになっていると、先輩の方から離してくれた。・・違和感がない。さすがだ。
「うん・・そうだな、俺はこれから帰るところなんだけど、水野さんは何か予定ある?」
「いえ、特にはないです」
「そっか、じゃあ一緒に帰らない?」
「え?」
「あー・・ええっと、嫌じゃなければだけど」
「いえ!あの、ぜひご一緒させてください!」
「よかった、じゃあいこっか」
そういうと先輩は歩き出した。さっきとは違って、ゆっくりと歩く。
そっか、歩幅合わせてくれてるんだ・・
こんな気遣いが出来るところをみるとつい深読みしてしまう。
・・・彼女、いるのかな、いたのかな、なんて聞けやしないことを。
「あれ?そういえば水野さんって俺を呼び止めたとき橘先輩って・・」
「ああ、こーちゃん・・松岡さんに聞いたんです」
「なるほど、江ちゃんかー」
「1年2年と同じクラスで、水泳部の話もよく聞きました」
2年生と3年生の靴箱へと別れて靴を履きかえる。もう誰もいないようで、自分の身長より高い金属の壁の向こうにいる先輩の声が、私に届くようにと少し大きくなる。
「へえ?たとえばどんなー?」
「夏合宿の話とかー」
どさっ
「どうしましたー?」
疑問に思って音のする方を覗き込む
「いや、ちょっと上履きが手からすべっただけだよ」
こちらに気付いて眉尻を下げて笑いながら、落としたものを拾ってもう一度仕舞い直す。
軽くリュックを背負い直すと、先輩は出口を指して促した。