第3章 エントリーNo.3 緑間真太郎
丁度日付が変わる前に俺はようやく帰宅し、ドアを開ける。
「ただいまなのだよ」
……。
いつもなら妻であるが玄関でむかえてくれるのだが、俺の声は虚しくも空間に掻き消されていく。
もう眠っているのだろうか?
まぁ無理もないだろう。
取り敢えず俺は靴を脱ぎ丁寧に揃えると、自室でコートと背広をハンガーにかけてクローゼットにしまう。
が寝ているかどうか確かめるため、俺達夫婦の寝室に向かった。
…本当はこの新居に引っ越す時に寝室は別々が良かったのだが、普段は我儘を言わないに念を押され渋々一緒の寝室を使うことになった。
最初は窮屈で鬱陶しかった。だがの寝顔を眺めていると何故か一緒に寝るのが苦ではなくなった。
…寧ろもっと見ていたいと思うようにさえなっていたのだよ。
さて寝室のダブルベッドを見渡すが真っ平らだ。ということははいない。
あいつに限って俺に黙って出掛けるなどあり得ないのだよ。もしかするとリビングか?
俺はリビングへ向かうと予感が的中した。
がソファに横たわりスヤスヤと寝息を立てていたのだ。しかも体に何も掛けずに。
俺はすぐさまの体を摩る。
「おい、。俺だ、起きるのだよ。こんな所で寝てると風邪をひくぞ」
だが何も反応がない。どうやら深い眠りに入っているようだ。
「全くしょうがないのだよ」
俺は溜息をつきながら体勢を低くしてを抱えこもうとした。その時の手にポストカードが握られているのに俺は気がついた。
そっと彼女の手から抜き、メッセージを読んだ。
“お帰りなさい、真太郎さん。貴方の好きなお汁粉、冷蔵庫に入ってます。どうぞ召し上がって下さいね。”
読み終わると途端に俺の口角が上がり、心が温まる。
この人と結婚して良かったと本気で思えた。
…全く、自分こそ疲れているというのに。嬉しくないわけがない。だがな、こんな所でお前に体調を崩される方が嫌なのだよ。
俺はポストカードをズボンのポケットにしまい、愛しい妻を抱えてダブルベッドに静かに下ろすと俺は腰掛けた。寝顔を暫く眺め、彼女の頬に唇を寄せる。
「…おやすみなのだよ、」
そして静かに音を立ててキスをした。