第10章 【第九章】領主の憤り
[ 緑間 * 10年前]
「ねぇ、これは食べられるの?」
「そんなのは、食べられないのだよ。」
そう、あれはまだ幼い頃、父上に連れられてやってきた、王都の城内。
俺は、城内を散策していた時、彼女と出会った。
彼女は、城の菜園で、召し使いの手伝いをしていた。
俺は、明らかに雑草しか採取しない、彼女に苛立ち、横に座って、指導し始めた。
「これも、これも。ぜんぶ食べられないのだよ。」
「えー…そうなの…。これなんて、すごく美味しそうなのに?」
彼女は、おずおずと黄色いきのこを差し出した。
「食べたら、3日ぐらいは笑いが止まらないきのこなのだよ。」
「……それは、いけないことなの?笑っちゃだめなの?」
彼女は、きょとんと俺の顔を見た。
「じぶんが笑いたくないのに、笑うっていうのは、病気なのだよ。」
「…そっか。そうだね。」
理解したのか、彼女は、そのきのこを別の籠に入れた。
「真太郎はすごいね。なんでもしってる。」
「とうぜんなのだよ。」
「お父さま、おかあさまがしんじゃって、かなしいカオばかり…。
笑わせてあげたいけど……。
そうだね、きのこ使って笑わせてあげても、そんなのちがうよね。」
寂しげに笑う彼女にどうしていいか分からず、回りをきょろきょろ見ると、たんぽぽが咲いていた。
「……これでも持っていけ。」
たんぽぽを採って、彼女に渡すと、彼女はたんぽぽのように笑った。
そして、今、俺は何も出来ない。
いつも最善の道を選んできた。
この道も、“最善”だったと言えるのか…?
あの時、やはり、美桜を領地に連れ去れば…。
初めての後悔だった。