第3章 兄妹ケンカ 初級編*及川徹
「…なんでこういう時に限ってこうなるんだろう…」
華楓は青城の最寄り駅に行く電車に揺られながら、切り傷のついた右手の甲を見た。
「とっとと鍵もらって帰ろう…」
最寄り駅で降りて華楓は青葉城西高校に向かって歩き出した。
「はぁ…及川の自主練に付き合わされるのはキツイわ…」
「ほんとな…まじ疲れた…」
花巻と松川と岩泉が校門から出てきた。岩泉が前からくる人影に気づいた。
「あっ」
「あっ岩ちゃん」
3人の前に現れたのは、先程まで噂話をしていた華楓だった。
「ほんとだ手怪我してる」
手の怪我に気づいた松川が言う。そして華楓は目で「誰が喋ったの?」と岩泉に問うように見る。
「…クソが全部喋った。あいつなら多分部室前辺りにいると思う」
「さんきゅ」
岩泉に及川の居場所を教えてもらい、部室棟に向かった。
「あー疲れた…いてっ」
顔の怪我を忘れかけてた及川は伸びをしたついでに勢いで触ってしまった。
「容赦なくやってくれるよね…ん?」
そこに華楓が現れた。華楓は走って来たため少し息が上がっている。
「何!?もう殴んないでよね!」
今朝トラウマで咄嗟に防御の姿勢をとろうとする及川。それとは裏腹に華楓は及川の前に静かに手を出した。
「…ぎ…」
「へ?」
「鍵、忘れたから」
「…あーそういえばテーブルに置いてあったよね!」
理解した及川は鍵を鞄から出した。だが華楓に渡そうとしない。
「ねぇ、早く貸してよ」
「…好きって言って?」
「…は?」
「徹好きって言って?そしたら鍵貸してあげる!」
及川は華楓に条件付きで鍵を貸すことにしたのだ。
「嫌に決まってんじゃん!」
「じゃあ貸さない」
「…」
言われるのを待つ及川。華楓は嫌そうな顔で
「……き…」
「ん?及川さんには聞こえなぁい」
「…徹…好き」
華楓は顔を少し赤くして言った。そして及川は満足そうに華楓をそっと抱きしめた。
「俺も好き。はいよ」
そう言うと及川は華楓に鍵を渡した。