第13章 私の願い 二人の想い *番外編*
「私はこの美術館を作った時、いくつかルールを決めた。『こちらに来た人数しか出られない』、『こちらに取り残されれば絵になる』等だ。そのルールの一つが記憶操作――つまり、この世界から生きて出る者は、ここでの記憶はすべて失うように。入って出られなかった者は、元から居なかったように改変されるよう設定している。まぁお前は作品だから、記憶操作は働かないがな。……それで、絵から人間に戻る方法だがな、外の人間と絵になった人間の思いが一致した時に戻れる。だが外の人間は、絵になった者のことなど覚えていない。だから戻れる事など、不可能に等しいのだよ」
お父さんはそこで一度区切り、短い沈黙の後、思いもよらない事を言った。
「……さて、そろそろ行くとするか」
「え……? どっか行くの?」
私は驚いて聞いた。お父さんは、私が産まれてからずっと近くに居てくれたから、離れるのが不安だった。
私の気持ちが分かったのか、お父さんは薄く笑いながら言った。
「すぐに戻るさ。私が留守の間、ここを頼むよ」
「……うん、分かった。行ってらっしゃい」
最後に私の頭を撫でたお父さんの手は、やっぱり冷たかった。
そして――
お父さんが出て行った部屋のドアは、二度とお父さんの手で開かれることはなかった。