第12章 『さよなら』の先に
「……さてと。アタシはそろそろ行かなくちゃ」
「行っちゃうの……?」
「ええ。イヴの話だと、アタシが絵の中に閉じ込められてから、五年経っているんでしょ? だったら家の掃除とか、家族の事とか、色々やることは多いからね」
「……そっか」
ギャリーと離れると、また会えなくなるような気がして、私は不安だった。
そんな私の気持ちを察したのか、ギャリーは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「大丈夫よ。一生の別れとかじゃないんだから。……約束もあるしね」
「約束……?」
「あら? イヴが約束したのに忘れちゃったの? マカロンを食べに行く約束!!」
「……あ!!」
思い出した。
一緒に外に出られたら食べに行こうって、約束してたんだっけ……。
「ちゃんと会えるわよ。だから大丈夫。ね?」
「うん!!」
頭を撫でてくれていたギャリーに向かって、私は笑顔でうなずいた。
*
私とギャリーは美術館の外に出ていた。
いつの間にか空は、灰色から真っ青な色に変わっていた。
絵だったギャリーが抜けた穴は他の作品が埋めたらしく、『忘れられた肖像』があった場所には『吊るされた男』と言う、新たな絵があった。不思議な力が働いているのは相変わらずだった。
「ん~。久しぶりに外の空気を吸ったわ! 気持ち良い~」
ギャリーは深呼吸をして、空を眩しそうに眺めていた。
「そうだね」
私も同じように空を見た。清々しいほどの青空は、確かに気持ち良かった。
「……イヴ」
「何?」
空を眺めていた私は、名前を呼んだギャリーの方を見る。
「色々やることが多くて、すぐにはムリだけど……落ち着いたら、手紙を送ってもいいかしら?」
「手紙?」
「そ、手紙。約束の待ち合わせとか連絡したいんだけど……。住所教えてもらってもいい?」
「もちろん!!」
私は近くにあった『美術館をより良くするために』の紙を一枚貰い、そこに家の住所を書いた。
「ありがとう、イヴ。……あ、後、ハンカチもマカロンの時でいい? ちゃんと洗濯して返したいから」
「分かった!」