第10章 後悔
翌日、私はいつもより早く起きて外に出かける準備をした。
本当はすべてを思い出した昨日の夜のうちに行きたかったのだか、さすがに時間も遅かったので今日にしたのだ。
――そう、今日、私はあの美術館へ行くのだ。
ゲルテナの展覧会はもう終わってしまっているかも知れないが、それでも行く価値はあると思った。
準備を終え、そろそろ出ようとすると、
「イヴ? どこかに出かけるの?」
と、メアリーから声をかけられた。
「メアリー……」
私はメアリーを直視することが出来なかった。そんな私の反応から察したのか、メアリーは目を細めていつもより少し低い声で私に聞いた。
「もしかして……思い出したの? あの美術館のこと」
「…………うん」
私はうつむきならがら答えた。
「ギャリーの事やメアリーがギャリーにした事、あの時のこと全部」
「……思い出してほしくなかった」
メアリーは悲しそうな顔をして言った。
「イヴはギャリーにあんな事した私のことキライになるだろうから……」
私はメアリーの暖かい手を握りしめながら、首を横にふった。
「メアリーと一緒に暮らしたこの一年、凄く楽しかった。あの事を思い出してもそれは変わらないよ。だから私はメアリーの事をキライになんかならない」
「……イヴ、ありがとう」
そこでようやくメアリーは私に笑顔を見せてくれた。
「私、これからあの美術館に行ってくる。お留守番よろしくね」
「分かった。気をつけてね」
メアリーに留守番を頼んで私は外に飛び出した。
一年前に歩いた道順を思い出しながら走る。私のことを命懸けで守ってくれた彼のために。どうしたら助ける事が出来るのか分からないけれど――それでもただひたすらに走り続けた。
空は、あの日と同じ灰色だった。