第9章 外へ
目を開けると、そこには大きな黒っぽい絵があった。
「えっと……」
私は何をしていたのだろう?
お母さん達と一緒に、ゲルテナって人の展覧会に来て、
受付している間に一人で見るって言って、
一人で展覧会を見て、それから――、
……それから何をしたんだっけ?
何か大切な事を忘れている気がする。でも思い出せない。もう一息の所まで来ているのに……。
……まぁ、思い出せない事をずっと考えていても仕方ない。
きっともう受付も終わっているだろうし、そろそろ戻らないと心配されるだろう。
私は二階を一回りして、お母さん達がいない事を確認し、一階に下りることにした。が、階段の近くにあった絵に私は目を奪われて足を止めた。
そこには、紫色の髪にボロボロのコートを着て壁にもたれ掛かっている男の人が描かれていた。
題名は『忘れられた肖像』
――なぜだろう。なぜ、こんなにも心が引かれるのだろう。
今まで見た作品には何も感じなかったのに……なぜこの作品だけ……。