第11章 朝の二人
ペットボトルが落ちる音がうるさく響く。角が潰れて、コテンコテンと転がってく音。
影山の勢いと怒った顔に私はビックリして肩をならすけれど、そんなことは影山の意識の中には届かない。
鋭い目付きはそのままで肩を掴む手は更に力が入る。
鏡を見て大丈夫だと思ったんだけど、まだ少し赤かったかな。それともちょっと腫れてたのか。
どっちでもいいけど、泣いてたことを正直に話せば理由まで聞かれるに決まってる。
……絶対に隠さなきゃ。
「泣いてないよ」
「嘘つくなよ!」
「……っ」
駄目だ、隠せない。
私が泣いたことを確信して疑ってない。
コイツが直感でそう感じたのなら、それを覆すのはたぶん簡単じゃないこと……。
でも私の口から言えることじゃないんだ。
だから無理でも隠すしかない。
「少しかゆくて擦っちゃっただけ」
「違うだろッ」
「ねえまず落ち着こう……?寝てる人にうるさいから、たぶん」
勢いが止まらず問い詰めてくる影山をなんとか制止する。
私たちの部屋に行く道の途中には、他のお客さんの泊まってる部屋があるし時間も早い。
泣いたことを隠したいのもそうだけど、それ以前に今の私たちは最低限のマナーを守らなくちゃいけない。
「……わかった。静かにする」
バツの悪そうな顔で私から手を離すと、転がっていったペットボトルを拾って距離をあけて私に向き直った。
顔は依然機嫌の悪そうなまま。
私が誤魔化してる内容に全く納得してないみたいだった。
認めるまで聞いてくるなこれは……。
こんな朝早くタイミングの悪い時に、よりによってなんで影山と会っちゃったかな。