第11章 朝の二人
「……それが聞けて安心した」
「……」
岩泉先輩の手に力がこもる。
これで、及川先輩との関係は終わる……?昨日抱いてもらったのが最後……。
フラッシュバックする及川先輩の妖艶な瞳といやらしく舌をのぞかせ微笑む唇。
手にしてる時には心が満たされているのに、手放してしまった瞬間に……。
………!
気づけば私は苦虫を噛み潰したような、歪んだ顔をしていて。
有り得ない。そんな最低なこと、あってはいけないのに……。
今考えていたことを理解した瞬間、自分の気持ちにゾッとしてしまった。
私一体なに考えて……っ。
駄目だ、絶対にだめ……これ以上自覚して言葉にするのは許されることじゃない。
「でもワリィ……。そう簡単にアイツがお前を手放すとも思えない」
ねえ駄目だって……。
「お前への執着はたぶん、俺らが思ってる以上な気がする。……すぐにはこの関係を辞めるように説得出来ねえかもしれない」
駄目って言ってるのに……。
「自分勝手な事言って最低なのはわかってる」
……違う、最低なのは私だ。
「少なくともインターハイが終わるまで……変に刺激を与えたくない」
駄目だって分かってるのに、岩泉先輩を大好きで裏切りたくなくて出した答えを今……心の中で裏切ろうとしてる。
岩泉先輩を好きな気持ち。及川先輩に抱かれることの気持ちよさと優越感を手放す惜しさ。
色んな感情がぐるぐる私の中で掻き回されて。
及川先輩が抜けてぽっかりと空く穴は、岩泉先輩を失うこととは違う意味で私の胸に虚無感と痛みを与えて……。
「もう少しだけ、我慢してくれないか……」
自覚することを止めるなんて、できるわけがなかった。
ごめんなさい岩泉先輩……。
まだあの人に抱かれることができるなら、そのチャンスを捨てたくなんてない。
岩泉先輩に抱きしめられて独占欲の中に埋もれて、私は及川先輩のことを思い出して奥を疼かせた。