第11章 朝の二人
視線を落とした先には、私の体を抱きしめる岩泉先輩の手があって。
弱々しく発された声とは裏腹に、決して私を逃がすまいと強く結ばれている。……頭をガツンと殴られたような。
馬鹿みたいな考えを消して、目を覚まさせられたみたいな衝撃が走って目を軽く見開いた。
そうだ……この手さえ握ることが出来るなら、他のものはいらない。いらないじゃないか。
欲張って全部手に入れようとするから駄目なんだ。
あの及川先輩の美しい笑みを向けられたって、影山の愛しそうに見つめる表情を受けたって、そこに岩泉先輩がいなければ。
唯一欠けてはいけない、一番の幸せがあるなら……。
震えながら、そっと自分の両手を動かす。
「岩泉先輩……」
ぎゅっと、強く……、強く岩泉先輩の手の甲を外側から握りしめた。
「私、岩泉先輩さえいれば……いらないです、他には……なにも…本当に……」
指先の震えがおさまらないけれど続ける。
「嘘じゃ、ないんです……」
さっき私たちが言い合ってた言葉と一緒だった。
さっき言ってた時もちゃんと本気でそう思ってたけど、今は及川先輩の事に向き合った上で本当に岩泉先輩を一番に選ぶことを決めたから。
この思いがどうか、ちゃんと伝わりますように……。
もう一度グッと手に力を込めれば、岩泉先輩も私の手に重ね直すようにして手をかざした。
「……及川とこの関係、辞められるか?」
「……ッ」
絶対にここで、間違えちゃいけない。
なにかに責め立てられるみたいに、コクリと一度首を縦に振った。
ねえ……岩泉先輩が大好きでたまらないのに。
胸に穴が空いたような気持ちになるのはどうして?