第11章 朝の二人
岩泉先輩のことを偽りようがないぐらい一番に好きなのは事実。
でも及川先輩の魅力やセックスに溺れてしまって、簡単には離れられないのも……嘘じゃない。
他の人と触れ合うことや、自分をそういった目で見られることさえ快楽を感じるようになった。
この気持ちを正直に言葉にすれば、岩泉先輩を傷つけてしまうだけだ。……今まで散々傷つけてるのに?
本当、私って最低なんだな……。
「……」
考え無しに開いた口から言葉が出てこない。
乾いた空気が静かな音を立てて出ていくだけで、この間にも岩泉先輩の不信感が積もってしまうことに焦りを覚えた。
及川先輩の奴隷を辞めたい……そう言うのが、岩泉先輩にとってベストの答えなんじゃないかって勝手に決めつける。
同時にそれが私にとってのベストじゃないことは、もうわかってる……。
どうしよう。……言葉が出てこないよ。
きっと岩泉先輩と向き合う形でこの話をしていたのなら、私は顔を隠すように抱きついて「大好きだ」って言って、また誤魔化してたかもしれない。
でも今は……誤魔化す方法なんてなくて。
「お前が抱かれてんの見るのは、結構ツラいんだよ……」
「……っ」
弱々しく最後の方の声が枯れていく岩泉先輩の言葉が……胸に刺さって痛い。
肩に押し付けられた額。……弱音を言う岩泉先輩が項垂れる姿が浮かんで、罪悪感で押しつぶされそうになる。
痛い……。
鼻の奥の方も、ツンとしてきた……。
頭の中も胸のあたりも全部岩泉先輩でいっぱいになって、苦しさから逃げるように必死に言葉を探した。
この痛みから逃れるために、岩泉先輩にこんな声で喋らせないために……。
それなのに……嫌だ。何も言葉が、出てこないなんて。