第11章 朝の二人
濡れた首筋に掠める程度に唇を当てる。
温泉の匂い……その奥に、ほんのちょっとだけ香る大好きな人の匂い。
意識が岩泉先輩だけに向いて頭の中がいっぱいになる。
温泉があったかいこともあって、抱きしめてるはずの私も包み込まれてるような気分になった。
「……シホ」
「んー……」
小さな声で返す。
ゆっくりと岩泉先輩の手が動いて、私の手の上にそっと両手を重ねた。
寝不足な私たち。襲ってきたのは急な眠気とこれ以上ない安心感。
……二人が一緒に重なったみたいで、静かに目を閉じて夢の世界に落ちた。
まどろんでいると、岩泉先輩が私の腕からすり抜けて行ってしまう。離された腕が寂しい。
岩泉先輩……?
チャポン……バシャ……
お湯が跳ねて、岩泉先輩が動く音がすぐそこで聞こえて。グイッと背中の方を押された。
私が目を開けて温もりを探そうとする前に、今度は岩泉先輩が私の後ろに回って昨日みたいに抱きしめてくる。
「ん……」
強く抱きしめられて、私は閉じていた目をゆっくり開けた。
首筋に触れ返してくる岩泉先輩の唇。
包み込まれるように抱きしめられると、まるで岩泉先輩の独占欲の中にいるみたいな気持ちになる。
眠ってられない……目、覚めちゃった。
岩泉先輩の眠りを妨げないように、そっと岩泉先輩の元に視線を向けようとする。
けれど首元に埋まった岩泉先輩の頭が喉に触れて振り返れない。これじゃ髪の毛しか見えないな……。
仕方ないよね、先輩は休んでるんだから……。
寂しいけど口角を上げて仕方ないと笑えば、その時漏れた呼吸の音を拾って岩泉先輩が眠そうなまま顔を上げた。
……邪魔しちゃった?
考えてる間にも、気づけば岩泉先輩の手が私の後頭部に添えられていて……。
首筋から肩の横に顔をずらすと、私の後頭部を優しく押しながら唇を重ねてくれた。