第11章 朝の二人
少しずつほぐれてきたあたりで、首の中間から背骨に沿うようにして親指で押す。
岩泉先輩は気持ちよさそうに小さい呻き声を上げた。
「それ、気持ちいい」
「もう少し力入れますか?」
「いや。こんぐらいが丁度……」
親指に力を入れるのが疲れてしまって、そんなに長く同じ動きで肩を揉んでいられない。
手のひらを使ってこねるように肩を押したりして、丁寧にほぐし込むことに切り替える。
まだ硬いな……。
動きに疲れる度に揉む方法を変えたりローテーションしたりするのを繰り返す。
だいたい解れてきた頃には、岩泉先輩は気持ち良さそうに声を漏らして私に身を預けていた。
「こんな感じでどうですか?」
「おう、サンキューな。めっちゃほぐれた……」
気の抜けた返事をすると、岩泉先輩が私にもたれかかるように倒れ込んできた。
リラックスしてるみたいで目を閉じてる。
「おっと……」
岩泉先輩の背中に胸をぎゅっと押し潰されながら、愛おしく抱きしめて受け止めた。
先輩の腕の下に手を通して、お腹の辺りが触れるところで両手を組む。力を込めてないから、岩泉先輩の普段は割れてるお腹が少し柔らかい。
とはいえ力んでない岩泉先輩からは、ずっしりと重さがかかってくる。温泉の中で浮力があるとは言っても……。
「ちょっと動きますね」
「……ん」
眠りにつく寸前みたいな、小さな声で岩泉先輩は返す。
……可愛すぎですか。
物理的に胸が押しつぶされてるのとは別に、無気力な岩泉先輩の返事に胸の辺りがギャップ萌えで締め付けられた。
岩泉先輩を少し引きずりながら後ろに下がって、温泉の端の岩に背中を預ける。……これで大丈夫。
昨日とは全く逆になった状態。
私の腕の中で目をつぶる岩泉先輩に愛おしさが溢れて、抱きしめる力を強めてから首筋にそっと顔を埋めた。