第11章 朝の二人
続ける言葉がなくて、薄く色づいた温泉に視線を落とす。
「……ま、たまには呼ぶ」
「……!」
黙り込んだ私に落ち込んでると思ったのか、子供をあやすみたいに私の誘いに応えてくれる岩泉先輩。
私の心はわかりやすく跳ねて、いつ来るかわからない岩泉先輩からの誘いの日を楽しみにしてニヤける。
「二人でいいんだよな?」
「はい!」
「及川に隠れてこそこそ来んのか?」
「はい!……あっ」
「ははっ!反逆者だな」
つい勢いに乗せて返事してしまって口を押さえると、岩泉先輩は逆に大口を開けて笑った。
わざと“反逆者”なんて言葉を使ってるのが、遠くはない日のことなのに懐かしい。
及川先輩を裏切って、引っ越してきたことを言わずに烏野高校に行ったこと。
……すぐにバレちゃったもんなあ。
複雑なことではあるけど、私も岩泉先輩につられてため息をつきつつ笑顔をこぼした。
「あの時は重罪人になった気分でした……」
「俺は冤罪人見てる犯人になった気分だったわ」
「そうですよ……!あの時岩泉先輩がいてビックリしたんですから」
「久しぶりの再会がアレだもんな。あんまり感動的になんねえもんだな、とか考えてた気がする」
「私心臓バクバクだったのにそんな呑気なこと考えてたんですか?」
笑う岩泉先輩につっかかる。
本当あの時及川先輩の雰囲気凄い怖かったんですから……!
和んだ雰囲気の中で、怒ってはないけど岩泉先輩をわざと睨みつける。
悪かったな、って屈託のない笑顔の岩泉先輩を見て、これってイチャついてるよね……?
なんて答えの帰ってこない自問自答に、心が幸せで浮かれてた。