第11章 朝の二人
今度こそ本当に顔を見ることが出来なくて、体ごと岩泉先輩に背を向けた。
見ることが出来ないというか、今…絶対に顔見られたくない……。
「……ごめんなさいぃ…」
本当は忘れて欲しいけど、忘れてくださいとか言っちゃうと、もっと恥ずかしくて滑稽に見えてしまう気がして。
弱々しい声で調子に乗ってしまったことを謝った。
見抜かれてたうえに更に上を行かれてしまったわけで、これは完敗と言う他ない……。
やっぱり歳上の余裕っていうのかな。……岩泉先輩には敵わないや。
「耳赤いぞ」
「言わないでください……!」
ここぞとばかりにわざと意地悪を言う先輩。
でもさっきとは立場が逆転してるせいで、もう何も言い返せない。
恥ずかしくてほんの少し悔しいのに……でも。
及川先輩から隠れるようにこっそり付き合ってる私たちには、二人きりの時間が少ないからこそ。
電話じゃなくてこうやって一緒の空間にいる時に、セックスじゃない会話の時間を過ごしてる事が嬉しくて……。
好きって言う甘い言葉を交わす時。どうしようもなく愛おしくなってキスをする時。
そんな瞬間が嬉しいのは当たり前なんだけれど。
意地悪を言い合ったり、嫌な顔を見せたり、貶されたり……好き同士だからこそ傷つかずに済むやり取りができるのが、負けず劣らず嬉しかった。
岩泉先輩はそういう態度でも私と接してくれるんだ……って、まだ知らない新鮮な先輩の情報が私の中で増えていく。
私の前で飾らず素を見せてくれる岩泉先輩に、もっと愛おしさが増していくんだ。
それに岩泉先輩ってバレー部員とかと接する時こんななんだろうなー、って想像すると、普段の先輩を知ることが出来てる気がしてさ。
恥ずかしさの反面、意地悪を言われるのも嫌いじゃないなあ…なんて変態みたいなことを考えてしまった。