第11章 朝の二人
私が近づいてくる岩泉先輩を止めようとすればするほど、岩泉先輩は引かずに体を寄せてくる。
「み、れないです…!」
「シホ」
体がくっつくのを妨げる為に出した手のひらに、ついに岩泉先輩の胸板が触れて……。
「……っ」
柔らかい肌の奥が筋肉で、少し弾力を含みながら硬い。
お湯が張り付く肌は、さらっとしてるようで私の手を吸い付ける。
岩泉先輩の肌というだけで、高鳴った胸を抑えつけられない……。
「顔見せてくれないとキスできねえだろ……」
「……っ、せんぱぃ…」
先輩の胸元に触れた手のひら。その手首をぎゅっと掴まれて、背けた頬に吐息がかかる。
すぐそこに岩泉先輩の顔があって……。岩泉先輩から、キスしてもらえるなら、それなら……。
ドキドキしながら、ゆっくり岩泉先輩の方を向く。
でもこの距離で色っぽい岩泉先輩を直視なんて、絶対キスじゃ抑えられなくなっちゃうからできない……!
ぎゅっと目をつぶって唇に触れる感触を待っていると、いつまで経ってもキスされなくて……。
え……?
不思議に思って目を開ける。いつの間にか岩泉先輩の顔は離れてしまっていて……。
真顔の岩泉先輩と目が合った。
「あの……」
「仕返しだ、ばーか」
「……!?」
軽く私のおでこにデコピンを食らわせて、今度は手首を掴んでいた手も離してしまう先輩。
ざまあみろっていう風に笑う岩泉先輩に、何を言ってるのか少しずつわかってきた。
私が岩泉先輩を照れさせたくて敢えてストレートに言ってたこと、その反応を楽しんでたこと……それがバレてたんだ。
それだけでも恥ずかしいのに、仕返しとして岩泉先輩からストーレートに言われてることにも気づかず照れて、挙句キスを待って一人で目を閉じてたなんて……。
「……っ」
やだ、恥ずかしすぎる……。
かあ〜っと、今までで一番顔に熱が篭もるのがわかった。
嬉しさから来る恥ずかしさとかじゃなくて、思い起こした行動が純粋に恥ずかしくて。