第11章 朝の二人
足先からゆっくり温泉に浸からせて、岩泉先輩から少しだけ間を空けて座る。
あったかい……芯まで沁みるってこういうことだ……。
恥ずかしさもどこかに行って緊張を緩ませると、私を見て岩泉先輩が楽しそうに小さく笑った。
「ははっ…やっぱ温泉入ると気ぃ抜けるよな」
「……ですね」
気の抜けた返事をして、肩まで沈んで温泉のあったかさを堪能する。
私の真似をするみたいに岩泉先輩も肩まで沈ませた。
岩泉先輩と二人きりで温泉。何もしなくたって、幸せだなあ。
ううん……幸せなだけなら温泉なんてなくても。岩泉先輩さえいてくれたら、それでいい……。
「幸せそうな顔してるな」
「そうですか?」
温泉の熱で体がほんわかしてきて、頭が考えるのを少しずつやめていく。
普段ならどう伝えるか考えてから発してるはずの言葉が、勝手にポロッと口から出て行って。
「岩泉先輩がいたら、凄く幸せです」
温泉で気が抜けてるせいだ。なんて、お酒のせい…みたいなふわふわした感覚で、自制の気持ちが薄れていく。
というかむしろ、偽ってない思いつきの言葉をあえて岩泉先輩に伝えてみたくなった。
いつもより素に近い状態の私を、岩泉先輩はどう思うんだろう……?受け入れてくれるのかなって、単純な好奇心が湧いて。
昨日気持ちを確かめたこともあって、なんだか強気に行動することが出来た。
「岩泉先輩だけですよ。誰にも動かない気持ちが先輩だけに反応して、いつもドキドキしっぱなしです」
力の籠ってない声で言うと、岩泉先輩がまたほんのり赤くなって照れてみせる。
「……」
何か言いたそうなのに言葉が出てこないみたいで。余裕のなくなった岩泉先輩がやっぱり愛おしい。
自分で調子に乗ってるのはわかったけど、もう少し岩泉先輩の表情を私の言葉で変えてみたくなる。
その度に岩泉先輩が私を好きでいてくれるのがわかるから。……もう少しだけ。