第5章 折原くん
「さん、だよね」
土曜の昼下がり
本屋で雑誌を立ち読みしていた私は、同年代の男の子に声をかけられる
最初は誰か分からなかったが、見慣れた笑みがそこにあった
「あ…えっ、…折原くん?」
私服姿の彼はいつもより大人っぽく見える…
私は今まで会話をしたこともなかった相手の突然の呼びかけに驚かないはずがなかった
そして私の表情は、彼から見てもよく分かるものだったらしい
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。
ああ、その雑誌。都内のカフェを特集してるやつだ」
「知ってるの?」
「この間読んだからね。そういやこの近くのケーキ屋が特集されてたよ」
「本当に?」
私が手に持っている雑誌をペラペラと捲り、指をさして「ここ」と言う彼
「うわぁ……美味しそう…」
折原くんは、突然私の斜め後ろに立ち位置を変えた
何かと思えば、そのまま私の肩に手を回して耳元に顔を近づける
「今から行こうか」
私は即座に頷いてしまった
行こうか、というその声
麗しいその声に誘われて…