第1章 【黄黒】ご機嫌のとり方
家の中に入るともう夜だと言うのに電気がついていなくて真っ暗だった。
「…黄瀬くんー?帰りましたよー?」
そう言っても彼からの返事はない。
リビングの電気をつけるとテーブルの上には朝作った彼用の昼食が置かれたままだった。
どこか出掛けたんですかね?
黄瀬くんの為に買ってきたお土産をその昼食の横に置いた。
誰もいない部屋の中はとても静かで淋しさを感じる。彼がいるのといないとでは天と地の差だ。
荷物を置きに、と寝室の灯りをつけるとベッドの上の布団が大きく膨らんでいる。
パッとそれをめくると中で黄瀬くんが枕を抱きしめながら小さく丸まっていた。
「……おかえりなさい…ッス…。」
「…はぁ。何してるんですか?ご飯は?」
「…食べてないッス…。」
「まさか僕が出てってからずっとこうしてたんですか?」
「…トイレには行ったッス。」
「とりあえずベッドから降りて、お土産に焼鳥買って来たから食べましょう?」
持っている枕を引っ張るがそれを離そうとしない黄瀬くん。
「わぁー!ダメッス!これは俺の黒子っちッス!!」
何言ってるんですか、この人は。
「どういう意味ですか、それ。」
「…。黒子っちの本体は今日誠凛のとこに行っちゃったから、黒子っちの匂いのするこいつが今日ずっと俺の側にいてくれたんス。黒子っちの分身ッスよ。」
スリスリと枕に顔を摺り寄せる黄瀬くん。
拗ねすぎて変な方へベクトルが向いてしまいました。
ご機嫌、とりましょうかね…。
「黄瀬くん。そんなに分身がいいならそうしていて下さい。僕は今日ソファーで寝ますから。」
そう言うとパッと僕の腕を掴む。
ほら、釣れた。
「……黒子っち。」
っと!わっっっ!!!
思いのほか強く腕を引かれそのままベッドへなだれ込む。
と彼が上から覆いかぶさるかたちになる。
そのまま彼の顔が近づき僕達は唇を重ねた。