あなたの声が聞きたくて【another story】
第8章 国見英
何も解決しないまま時間は過ぎた。
そろそろマフラーが欲しいかな、なんて思うようになってきた12月の帰り道。
俺の隣には変わらず優さんがいる。
「あきら。」
俺を呼ぶ柔らかくて暖かい声。
実際に温度なんて感じないけど、呼ばれる度にじんわり心が暖まる気がする。
「私ね、東京の大学に行くことになったの。」
知ってる、知ってますよ。俺と離れるんでしょ。
思ってる言葉は口から出てこようとしない。
「来月には代表の招集で東京に行かなきゃいけなくなるの。」
わかってますよ。監督言ってましたもん。
ひねくれた言葉ばかり浮かんでほんと嫌になる。
「だからさ、」
だから何?遠距離になるから別れようって言うの?そんな言葉、聞きたくない。
頭の中で駄々を捏ねるように否定の言葉を並べる。
本当俺ガキみてぇ。
「英が高校卒業して迎えに来てくれるまで待ってるから。」
優さんの言った言葉は見当違いもいい所。
待ってるって言った?
え?