第32章 ピタゴラTrip!
「んー、わかる。わかるけど」
言葉にはしない。
無理だよって、だって彼女は『薔薇の花嫁』だから。
ただ微笑んで同調するふりをした。
まだ彼らは知らなくていい。
「んー。やっぱりかーいいなぁ。君たち!」
笑って誤魔化して。
「でも君たちともいないとなると、木原くんはどこなんだろう…」
同クラの生徒は彼女は気が付いたら居なくなったと云っていたし、他の学年に彼女の知り合いはいるが今はいないはずだ。
で、バレー部の面々も知らないとなると一一。
「あっ」
渡くんが声を上げた。
「ん?」
「さっき廊下を走って行きました。木原さん」
ふむ。
「階段?」
「多分降りてきました」
ほう。
じゃあ外かな。
私は禁帯出書庫の窓にかかるブラインドをどけて開ける。
さぁ、と冷気が部屋に入り込む。
窓の外にはしっかりとした樫の木がある。
「石和さん、まさか」
渡くんが私を止めようと駆け寄るより早く窓枠に飛び乗り張り出した枝に移った。
結構しっかりしていて大丈夫だ。
そのまま枝から幹に伝い下へ向かう。
こんなんお手のものだ!