第21章 限界ボーダーライン
一一そして今に至る。
「ねぇ、オレが前岩泉さんを好きなのかって聞いた時、そういうんじゃないって云ったよね?」
国見くんがズイと顔を近付けてくる。
確かにあの時はそう答えた。
だってまさかこんな事になるなんて思ってなかったし、……『好き』、なんて知らなかったから。
あの時は確かに私は義務感と可憐ちゃんを案じる気持ちだけでああしていると思っていた。
…………今にして思えば、あの頃から私は既にこの人達の情熱に惹かれていたのだけれど、まだそれを認るのは後の話で。
「そ、だよ」
「じゃあ何で!」
ドンッとめり込まんばかりの勢いで私の顔の横に国見くんの拳が突き入れられる。
その顔は、そう、正に悪鬼。
いつものポーカーフェイスが嘘の様に憤怒にまみれ歪んでいた。
「まあまあ国見ちゃん落ち着いて。ほら、つむぎちゃんが怖がっちゃうから」
「及川さんっ…、ッ…、はい」
及川先輩に云われて振り向いた国見くんは彼の顔に冷静になったみたいだ。
先程の国見くんを凌駕する程一一及川先輩の眼が冷たかったからだろう。
空気読めないトビオちゃんが黙ってしまう程に。