第22章 【こぼれる回想と相合傘】
授業が早く終わったとある日の昼、縁下力含む男子排球部の2年達は2-4の教室で一緒に昼食にしていた。田中や西谷が馬鹿を言いそれを成田と一緒に苦笑しながら相手をする力、そこで窓の外に目をやった木下が呟く。
「何か空やばくね。」
確かにさっきまで青かった空は急に暗くなってきている。田中がマジかよと呟いた。
「俺傘持ってきてねーぞ。」
「俺も。」
成田も言った。
「天気予報が思い切り外れたな。見た感じ他でも傘持ってないって人多そう。」
「力は持ってねーのかっ。」
「今日は持ってないよ。この様子だと今から急いだ所で降るのは避けらんないな。」
「まぁちっとくらい濡れたって平気だけどなっ。」
「西谷、みんながみんなお前みたいな野生児じゃないから。」
「おいっ、俺が馬鹿みたいに言うなっ。」
「違うつもりだったのか。」
木下がボソリと呟くと西谷はてめーっと喚く。西谷にがるるるとやられながらも笑っている木下を他所に成田がふと呟いた。
「そういえば、美沙さんがお前の妹になってから随分経ったな。」
「どうしたんだよ、急に。」
尋ねる力に成田はん、いやと言う。
「ほら、あの子が来てすぐの時もこんな風に曇ってたから。」
ああそういえばと力は思い出す、彼の義妹となり更にはそれを踏み越えていまやなくてはならない存在となった旧姓薬丸美沙が烏野高校に編入した時の事を。
「✕✕高校から編入しました、縁下美沙です。1年5組です、よろしくお願いいたします。」
烏野高校の全校集会にて壇上の細っこい少女がそう挨拶をすると湿っぽい匂いがこもる体育館にざわめきが走った。原因はこの辺より南の方を思い起こさせるイントネーションの言葉でも15歳にしては妙にお堅い挨拶でもない。2年4組が軽く騒ぎ出した為だ。彼らの目は普段は注目されることが早々ない自分に注がれていた。特に前後に並んでいる奴らの視線がすごい。それだけでなく周りでヒソヒソと今エンノシタって言ったか、聞き間違いじゃないと思うけどといった声が飛び交っていてしまいには後ろから縁下あれお前の親戚かと言われる始末だ。それに対して力は曖昧に微笑んでとりあえず流した。もとより覚悟していた。編入が決まるまでの間に今壇上に立つ義妹になったばかりの少女と話をしていたのだ。