第21章 【2つの悪寒】
「何だあの車。結構ごっついな。」
「あんまりこの辺じゃ見ない気がするね。」
「どっかのボケ川みたいな不審野郎じゃないといいがな。」
「何で俺今日は色んな奴に誘拐犯扱いされるのっ。」
「自業自得だボゲ。烏野6番本人がいなかっただけありがたく思え。」
その車は先に及川から逃げた縁下美沙も目撃していた。ガラスに何か加工でもしているのか後部座席の中はよくわからなかった。しかしそれを見た時美沙は何故か再びの悪寒を感じた。何でやろ気のせいやんなと思いながらも美沙は必要以上に急いで家に帰った。
それでもとりあえず美沙は岩泉とパソコン部員達のおかげで無事に及川から逃れられた訳で、義兄の力はその報告を受ける事となる。
「及川さんはだんだん手段を選ばなくなってるな。」
自室のベッドの上、帰ってくると珍しくいきなり甘えたモードで飛びついてきた義妹を抱っこしてやりながら力は言う。
「でも岩泉さんがいて良かったよ。」
「パソコン部のみんなも逃げるの誘導してくれた。あと、及川さんさりげに弄ってた。」
「流石だな、お前とソリが合うわけだ。」
力はよしよしと義妹の頭を撫でた。
「心配してたけど何だかんだ言ってパソコン部に行って良かったみたいだな。」
「今度みんなでノベルゲー作るねん。」
「読んで話進めて選択肢があったりする奴かい。」
「うん。」
「お前が絵を描くの。」
「ううん、絵はもっとうまい人おるから。でもオープニング動画の編集任された。」
「凄いじゃないか。」
「あと、女の子キャラの声もやんねん。」
「え。」
一瞬固まってたちまちのうちに無表情になっていく力に対し美沙は義兄の腕の中で呑気に語り続ける。
「もともと声なしの予定やったんやけど丁度女子きたから女の子だけでもって。せやけど私声可愛い訳やないからキャラの顔と合うかなぁって思うんやけど。あと芝居もあんま自信ないからちょいドキドキする。」
「そういう問題じゃない。」
力は言って義妹を抱きかかえたままベッドに転がる。美沙からすれば義兄に抱っこされたままうつ伏せにされたのでふぎゃああと小さく叫ぶが力はいつも通り聞くつもりがない。