第21章 【2つの悪寒】
「及川。」
「あはは、岩ちゃん。」
「他校の門前で何やってんだおめえは。」
「べべべつに、単に美沙ちゃんをお迎えに。」
ここでパソコン部員がかどわかしに、と言うので及川は青ざめちょっとやめてよねっと慌てる。しかし時すでに遅し、たちまちのうちに及川は岩泉に締め上げられた。
「てめーっこのクソ及川っとーとー他校のそれもかんけーねー部の前で大恥さらしやがってこのストーカー野郎っ、通報寸前だろうがっ。」
「何でみんなして人聞きの悪い事言うのさっ。」
「てめーの行動反芻(はんすう)してみろこのアホ川っ。」
「やめて岩ちゃん締めないでっ。」
この間に美沙は及川から逃れ、パソコン部員達もほれ今の内にあっちから逃げろと美沙を誘導する。
「と、まぁこの辺にしといて、だ。」
がなりたてていた岩泉は途端に落ち着いて事の次第を見守っていた烏野パソコン部員達に目を向ける。
「6番の妹はちゃんと逃げたか。」
誰かが縁下なら今しがたリリースしましたと言い、おい釣りじゃねーぞと突っ込まれる。岩泉は満足そうに微笑む。
「ならいい。悪かったな、うちの主将が迷惑かけて。」
「岩ちゃんひどいよー、美沙ちゃん逃すの手伝うなんてー。」
「今回はマジで困ってただろーが、誘うんならせめて事前に連絡してやれ。」
「ううー、わかったよ。」
「じゃあこいつは回収すっから。」
呆気にとられるパソコン部員達を尻目に岩泉は及川を引きずり始める。パソコン部員達はばっと挨拶をし、部長がこちらもつい乗っちゃって申し訳ないと一言言う。岩泉はほぉとこそっと感心し、気にすんなじゃあなと言ってその場を去った。
「あのオタク集団は意外と喋るのな。」
及川を引きずりながら岩泉は呟く。
「喋るなんてもんじゃなかったよー、みんな俺の事好き勝手言ってさー。」
「ほお、わかる奴らじゃねーか。6番の妹と気も合いそうで結構なこった。」
及川は岩泉の顔が密かに微笑むのを見逃さない。
「何だか岩ちゃんの方が美沙ちゃんのお兄ちゃんみたい。」
「馬鹿、ふざけんな。あんな半分ボケの妹なんざごめんだ。」
岩泉はわざと吐き捨てるように言う。
「烏野6番がいてこそのあいつなんだろうよ。」
及川はクスリと笑うがしかしふと向こうの方に目をやる。岩泉も気づいたようだ。