第2章 【どさくさ】
「すまん、縁下。とりあえず表向きは、な。」
「はい。」
「ほな私失礼します。兄さん、図書室戻っとうからまた後でね。」
「お、おい美沙。」
力がろくに口を挟めないまま美沙はとっとと男子排球部の部室から出て行ってしまった。
「そもそも俺が連れて来ちゃったのが悪いのに。」
去っていく美沙を見送った力はショボンとし、日向が首を傾げた。
「んー、何か変だっ。」
「変って。」
谷地が尋ねる。
「だって俺らだって騒いだし美沙だけが悪いんじゃないじゃん。」
確かにと言う谷地、聞こえていた力はあ、と呟いた。
「やられた。」
同じく気づいたらしき月島が悪い顔でクスリと笑う。
「発端が自分とはいえあのどさくさを利用するなんてままコさんにしては考えましたねぇ。」
「ツッキー、どういう事。」
「別に。とりあえずままコさんからしたらこれで縁下さんに部室に留め置かれずに済むよね。」
山口はハッとした顔をした。日向と影山はやはり首を傾げた。
「そんなに嫌だったのかよ。」
がっくりする力にこれまた状況を察した成田と木下が慰めた。
「がっかりするなよ、フラれたんじゃあるまいし。」
「成田、言い方。」
「そーそー、いくらお前らひっつきまくってるとは言えあんだけ過保護にされたら普通は兄妹喧嘩になるって。」
「寧ろいい事じゃないのか、縁下はもうちょっと美沙さんの自立を促すべきだよ。」
「成田、うちの美沙は幼児か。そんで俺は育児指導でも受けてるのか。」
「まぁ実際美沙さん結構お子ちゃまだもんな。でもって縁下も何かちっちゃい子の面倒見てるみたいなノリになってるし。」
「木下、怒るぞ。」
「何にせよ過保護はもうちょっと何とかしろよ、しまいめに美沙さんお前いないと近所に買い物も出来なくなるぞ。」
「そうなりそうな奴が1人で本屋行ったり電機屋行ったりパソコンショップのぞいて店員にスペックについて聞きまくったりなんかするかよ。」
「そう思うなら尚更だな。」
成田ににっと笑いながら言われて力はやれやれと苦笑した。