第17章 【偏り】
「多分、こう、かな。」
とりあえずやってみて恐る恐る義兄に見てもらう。美沙のノートを眺めていた力はにっこり笑った。
「出来るじゃないか。」
また頭を撫でられた。
「よし、次はこれな。」
「あい。」
子音がぶっ飛んだ返事をして美沙はまたシャーペンを動かし始めた。
そうやってどれくらい経った頃か。
「兄さん、もう私頭パンクしとう。やっぱりこういうん苦手やあ。」
美沙がテーブルのうえに突っ伏してしかもビロンと伸びる。珍しく勉強で甘えたモードを発動させる美沙に力は大丈夫だよと微笑む。
「良いところまで行ってるのが多いからもう一歩だな。後は思い込みをもう少し何とかしたらいいんじゃないか。」
「確かにそうなんやけど、すぐ他が見えんくなるからなぁ。」
「はいはい。」
「適当かいっ。」
突っ込む美沙に力は違うよと笑った。
「お前何だかんだ言ってやる時はやるからあんまり心配してない。」
「そ、そーなん。」
照れてしまい美沙は視線を下に落とす。隣に座る力はやはり微笑んでいてその片手がそっと美沙の肩を掴む。
「兄さん。」
「お前せっかくコンピューター得意なんだからさ、数学も頑張って損はないよ、きっと。」
「兄さんはホンマ上手に言うなぁ。」
「どうかな。」
力は困ったように笑いながらそのまま美沙を引き寄せる。気づけば美沙は力の両腕の中にいた。
「お前教えるのは正直楽だからなぁ。」
「そーなん。」
「前に見ただろ、田中や西谷みたいなかすりもしない珍解答はしないから。」
「アレはそもそも問題外の外なんちゃうの。」
「本人らに言うなよ、うるさいから。」
「わかった。」
「いい子だね。」
力は言って美沙の頭を撫でる。
「でもお前はもっと偏りを何とかしような。数学の次は生物かな。」
「ふぎゃああ。」
美沙は力の腕の中で力のない悲鳴を上げた。