第17章 【偏り】
迂闊(うかつ)やったと美沙は思う。いつもどおり帰宅し、部屋でゴソゴソしていたら義兄の力が来ていつも通り普通に部屋に通した。雑談をしながら鞄の中からプリント類を出していたらうち1枚がひらりと義兄の足元に飛んで行った。あ、と思った時はもう遅い。飛んで行ったプリントは力に拾われ、ふと気づけば拾った力の表情が恐ろしい事になっていた。
「まったく、お前ときたら。」
力がため息をついた。今兄妹は力の部屋で折りたたみ式の机を広げ絶賛数学の勉強中である。
「数式も幾何も駄目なくせに何でプログラムはいけるんだよ。」
「だってBASICやし英単語混じってるし流石にC言語(しーげんご)はわからんし。」
「断じてそういう問題じゃないから。ていうかさ、それなら少なくとも数字を代入するって概念は頭にある訳だろ、何で数式関係の問題がボロボロなの。」
「な、何でやろ。」
自分でもわからない事を問われる程難儀な事はない。
「まあ大体検討つくけどな、興味ある事とそうじゃない事の差が酷いんだろ。」
違うとは言いかねて美沙はう、と唸るしかなかった。ショボンとなってしまう。力はそんな義妹に微笑む。
「ほら、ショボンとしてる暇はないよ。もう一度この問題やってごらん。」
頭をポムポムされた。美沙は頷き半泣き状態で式を解くのにかかる。途中までは書けた。しかしそこから後で詰まる。これやと先が解かれへんくないかと美沙は考える。
「うーん」
力が困ったように笑う。
「惜しいんだけどなぁ。」
「ううう。」
「ほら、唸ってないで頑張って。」
力に言われて美沙は投げ出すまいという努力はした。しかし
「ううううううう。」
唸り声がひどくなるだけだった。
「あかん、ホンマにわからん。」
涙目で義兄を見つめる。
「こっから先がわからん。」
力がよしよしと美沙の頭を撫でた。
「落ち着いて見てみな、ここまではあってるよ。でも後はお前の書いてるのじゃこっち側が解けないからこうやって」
落ち着いた義兄の声に美沙はつられて落ち着き始め、解説を一生懸命に聞く。聞きながら途中で何となくわかり始めた。力も気づいたらしい。
「じゃあ今度はこれやってごらん。」
「わかった。」
美沙はシャーペンを動かし始めた。