第15章 【玉の緒は】
「いい妹貰ったと思ってる。真面目だしわがまま言わないし意地悪もしないし。わがままはもうちょい言ってもいいくらいだな。」
相手はムッとした顔をした。美沙が落ち着かなくなったのか力の手を強く握り、谷地が心配そうにそんな美沙を見ている。相手が沈黙してしまった隙を見て力は美沙の手を引いて歩き出し、谷地も後に続く。相手は最後に背後から何か言った。谷地が息を飲み、ここまでほとんど何も言わず我慢していた美沙がばっと向こうを振り返る。
「美沙。」
力は義妹の手を引いて留めた。
「せやけど兄さん、兄さんの事まであんな風に。」
泣きそうな顔で美沙が言い、谷地も呟く。
「目障りだから2人とも死ねだなんてひどい。」
「俺はいいよ。」
憤りを隠しきれていない義妹と悲しそうにする後輩に力は首を横に振る。
「美沙に言ったのは正直やめてほしいけど。とにかく美沙はもうああいうのは聞かなかったふりするんだよ。谷地さんも気にしないで、俺は大丈夫だし美沙も死んだりしないから。」
力は言って微笑み、3人はしばし黙って歩く。
「あの、」
沈黙を破って谷地がボソッと言った。
「美沙さん、ずっとあんな事言われてたの。」
「まあそうやねぇ。」
少し落ち着いた美沙がいつもの調子で答える。
「ほぼ毎日かなぁ。」
谷地がゲゲーンといった顔になる。
「よよよよよく生きてたね、ホント。」
「アハハ、やっちゃん兄さんとおんなじ事言うてるで。」
「こ、こら美沙っ。」
「それはともかくな、兄さんにも言うたけど死にたなかったから。ようわからん事言う人の為に死ぬなんて絶対嫌や。」
谷地はそっか流石だね、と笑い力もまた一度は聞いたそれに再度安心する。
「それにしてもやっちゃん巻き込んでえらい思いさせてもた、ごめん。」
「ああ、そうだな。」
「いやいやいや、2人ともそんなっ。」
「せめて何か奢りたい気が、せやけどもうこの辺お店ないし。」
「今度麩菓子奢るよ。」
「兄さんナイス、私スマホにメモっとくわ。」
「ええええっ、あ、え、その時はごちになります。」