第15章 【玉の緒は】
そうやって3人は仲良く帰り道を共にする。美沙と谷地はいつも通り他愛もない話で盛り上がり、力は義妹がかます半分ボケぶりに苦笑しつつも基本は見守っていた。そこへ烏野ではない他校の生徒数人がすれ違う。3人は特に気に留めていなかったのに内1人が声を上げた。そしてそいつは美沙を指差して言った、捨て子の薬丸がまだ生きていると。
途端に空気が凍りつき、烏野の3人もすれ違った方もお互い足を止めて向き合った。
側(はた)から見れば一触即発といった雰囲気、実際谷地が総毛立ったかのように体をこわばらせている。力もまた一瞬顔がこわばる。おそらく相手は薬丸だった頃の美沙を知っているのだろう、しかしタイミングも言い方もあまりではないか。思わず心配になって美沙を見る。当の美沙は無表情で普段あまり合わせない視線を相手に向けていた。
「あの、」
何かの予感がして力は困ったような笑顔で言った。言いながらもさりげなく義妹の横に並ぶ。
「うちの妹がどうかしたのかな。」
相手は驚いて力と美沙と顔を交互に見る。
「ごめん、挨拶遅れたね。美沙の兄です。」
相手はかなり混乱していた。美沙がこちらをちらりと見るが力は首を横に振る。今美沙に何か喋らせるのは危険だ。相手は薬丸は1人っ子のはずだと呟いた。
「ああ、前の話だね。」
力は笑う。ちょっと引きつっているかもしれないと思う。少し下がった辺りでは谷地があわわわと状況を見守っている。
「今は俺が兄貴だから。」
言って力はこそっと美沙の手を握る。義妹の小さな手は微かに震えていた。そのまま力はじゃあ、と呟き3人は去ろうとした。すると相手が何か思い出したらしく噂は本当だったのかといった事を呟き、力に向かってとんだ災難だなと言った。
「どういう意味。」
力は尋ねた。自分でもわかるくらい顔から表情がなくなりそうだ、しかしここは堪えなくてはいけない。相手は聞かれた事に答えた。勿論好ましくない答えだった。
「そんな、美沙さんは」
あまりの事に谷地が声を上げて反論しようとするが力が制止する。
「俺は別に」
力は苦笑しつつ言った。