第15章 【玉の緒は】
無駄にでかい声で言う五色に白布はまあそれはどうでもいいけど、と呟く。
「牛島さんを振り回すのはやめてほしいもんだ。」
「あー賢二郎、それきっと無理。あの子は振り回すつもりなくても若利君が気に入って相手するから。」
「俺は及川ではない。気に入ってなどないと何度言わせる。」
「うそん、シンパシーでも感じてんじゃないの。ままコちゃんの事情からしてさ。」
白布が咎めるような視線を天童に向ける。勝手に話に引き入れられた牛島は微かに眉根を寄せしかし静かに言った。
「事情は全く違う。」
「ツマンネ。」
「おそらくあいつもそう言う。いや、ひょっとしたら」
ここで牛島が少し考えた為、白布はあまり変わらぬ表情で牛島を見つめ天童と五色は何だ何だと身を乗り出す。
「そもそも人の事情に興味はないと言うかもしれない。」
天童と五色がブフォっと吹き、白布がああと呟いた。
「何でそいつが浮いてたのかわかる気がしました。」
そうやって他校の連中が話していたのは何かのフラグだったかもしれない。
「ちゅう訳やったんよ、やっちゃん。」
伊達工や白鳥沢で噂されている事など露知らず、縁下美沙はそう言って話を結んだ。聞いていた谷地仁花はヒエーッと叫ぶ。先日美沙、日向、影山の3人で白鳥沢へ潜り込んだ時の話だ。
「ウウウウウシワカさんに見つかった上に他の選手の人達にも見つかっちゃってお話したって、よく生きて帰れたねねねね。」
「私もそない思う。」
美沙は言って自販機で買った茶を一口飲む。ここは坂ノ下商店の前、義兄の力の買い物待ちだ。
「いやぁ、えらい目におうたわ。」
「でも凄い、よく話せたね。」
「ウシワカさんは前にいっぺん話した事あったしなぁ。」
「でも知らない人も来たんでしょ、美沙さん人見知りなくなってきたんじゃない。」
「いやそうでもないで、目はろくに合わされへんかったから。」
特にあの妙に察しの良さそうなにーちゃん─つまり天童─に対してはそうだったと美沙は思う。
「縁下さんは何て。」
「行かすんやなかったって。しかも言うに事欠いて何て言うた思う、色物に好かれたんちゃうかって。」
谷地はブフッと吹き出す。