第2章 【どさくさ】
男子排球部の部室にて、縁下美沙と日向翔陽と谷地仁花が不思議な会話をしていた。
「おおー、このキャラやっぱかっけー。美沙どー思うっ。」
田中から借りた漫画雑誌を眺めながら日向が声を上げる。
「何で私に振るん。」
話を振られた美沙はその義兄がするような困ったような笑顔で言う。
「だって美沙漫画好きだろ。」
「あんたなぁ、漫画ってかなりジャンル広うて守備範囲も人それぞれやねんで、もし私が少女漫画系の人やったらどないするつもりやったん。」
字面(じづら)ではわかりにくいが美沙はハハハと笑いながら言っているので安心してよい。
「でも美沙さんの場合少女漫画はちょっと考えにくいよーな。」
「ちょお、谷地さんっ。」
「あはは、ごめんね。」
そんなやりとりをしながら美沙はえーと、と横から雑誌を覗き込む。
「うん、それも格好いいと思うけど私はこのキャラが好きやなぁ。」
「ええっ、美沙ってマニアックっ。じゃあこの漫画のは。」
「このキャラ。」
「これは。」
「この子。」
「んじゃこれっ。」
「この人やなぁ。」
「何なのあれ。」
月島が呆れたように言う。
「美沙さん漫画が好きだからって日向が色々聞いてるみたい。」
山口が笑いながら友に解説する。
「そもそも何でままコさんがここにいる訳。」
「そりゃあ、ねえ。」
苦笑しながら山口はそっと後ろを振り返る。その視線の先には勿論、美沙の義兄にして先輩の縁下力がいた。
「ああ、ごめんよ。ちょいと事情があって。」
力は申し訳なさそうに微笑むが2年仲間の木下が事情って、と呟く。
「いつも通り図書室で待たせてたらそっちで妹にちょっかい出した奴が湧いたってだけじゃねーか。」
「木下うるさい。」
一度美沙が学校で階段から落とされたという事件があってから義兄の力が異常に心配した結果、美沙は週の大半を力の部活が終わるまで図書室で過ごし終わったら男子排球部の連中に混じって一緒に帰るというはたから見れば訳のわからない習慣が出来ているのは男子排球部関係者周知の事実である。(詳細は第一部 第31章を参照されたい)
月島は木下の呟きを聞いてたちまちのうちに引きつった顔をした。