第13章 【電脳少女、偵察に行く その3】
ここで少し時を遡(さかのぼ)ろう。縁下美沙を見つけて捕まえた牛島若利が彼女と言葉を交わしている時、同じチームの3年天童覚と1年の五色工はその現場を目撃していた。
「お、若利君がまた誰かと喋ってる。」
「誰だあれ、女子ですかね。」
「可愛くないけど一応そうらしいね。でも若利君に何の用だろ。」
「ハッ、まさか告白っ。」
「そんな雰囲気じゃあなさそーだね。」
天童はニヤニヤしながら牛島の様子を伺う。
「あー、でも知り合いっぽい感じだね。」
「わかるんですかっ。」
「女子の方が普通に喋ってる。」
「そうですか。それより何着てんだあいつ、変なシャツっ。」
「なかなか開き直ってんねぇ。ちょっと行ってみよ。」
「あっ、俺も行きますっ。」
そういった訳で縁下美沙は天童と五色とも相見える羽目になる。
「あっれー、若利君何やってんのかなーっ。」
知らない奴らが来たので美沙はふぎゃあああと叫びたい心境だった。しかもやはり牛島は自分を離そうとしない。もうええわと覚悟を決めるしかなかった。
「特には。」
当の牛島は淡々と答える。
「少し話をしていただけだ。」
「後ろから首根っこ掴んで。」
疑問形で言う天童に牛島はようやく気づいたらしい。やっと美沙は解放される。
「てゆーかっ。」
ここで五色が声を上げる。
「お前うちの学校の奴じゃないだろっ、スパイだスパイっ。」
「興味本位で来たらしい。それにこいつに見られても大した事はない。」
「さっすが若利君、自信たっぷりだねぇ。ところでさ」
ここで天童にぐいっと来られて美沙は早速人見知りが発動し目をそらす。
「アンタ誰。」
「ままコです。」
「は。」
物は試しと美沙はわざとハンドルネームを名乗ってみた。混乱してくれた隙に逃げられればと思ったのだが、
「それはお前がネットで使っている名前だろう。」
牛島が天然丸出しで訂正してきた為徒労に終わった。まずい事にそれは天童の興味を更にそそってしまったらしい。
「え、何、ハンドルネームとかいうやつ。アンタネットで何かやってんの。」
「別に、その辺にいるただの動画投稿者です。」
天童はああ、と呟き美沙のTシャツに目をやる。
「だから電脳少女なのねん。」