第12章 【電脳少女、偵察に行く その2】
どれくらいたった頃だろうか。
「やべっ。」
日向が声を上げた。
「ウシワカに気づかれたかもっ。」
「何やてっ。」
言いながら美沙は辺りを見回す。外に人はいない。
「俺と日向は2回目だ、また見つかったら流石に厄介だぞ。」
「えらいこっちゃっ、私はあんたらより足遅いから先行って。」
日向と影山は言われた通り脱兎のごとく先に離脱し美沙も後を追おうとする。が、
「待て。」
ガシッと後ろから首根っこを掴まれた。聞き覚えのある声に美沙はそおっと後ろを振り返る。思った通りの顔があった。
「お前。」
「アハハ、ご無沙汰してますウシワカさん。」
「その呼び方はやめろと言ったはずだ。」
乾いた愛想笑いで言う美沙に牛島は特に表情を動かさずしばし見つめてくる。
「えーと」
何かの予感がすると思いつつ呟く美沙に牛島はさらりと言った。
「名前が思い出せない。」
「そんなとこだろうと思いました。縁下美沙です。烏野の男バレ6番縁下力の妹です。」
「義兄妹というのと兄の顔はうっすら覚えている。」
それもあまり驚かへんなと美沙は思った。一度会ったきりだし牛島からすれば—力には気の毒であるが—控えの選手を覚える必要もないだろう。
「それはともかくお前はここで何をしている。」
ジロリと睨まれたような気がしたが図体のでかい牛島はそれだけで威圧感がある。当人にはそのつもりがないかもしれない。
「興味本位で覗きに来ました。」
美沙は半分本当の事を言った。
「そのなりでか。」
牛島は西谷の字で思い切り電脳少女と書かれたTシャツに目をやる。
「制服やとあまりにバレバレやったんで。」
「あと、誰か他にいた気がするが。」
「はて。」
嘘をついてもすぐ顔や態度に出ると力に言われる美沙にしては及第点である。実際牛島はそれ以上は突っ込まなかった。
「好きにしろ。お前に見られても大した事はない。」
「いやそろそろお暇(いとま)します。」
「そうか。」
では失礼しますと美沙が言いかけた時だった。