第10章 【義妹、実現する】
「美沙ーっ、かっ飛ばせーっ。」
「おっしゃやったれええええっ、縁下妹おおおっ。」
「何で西谷と田中が盛り上がってんだろ。」
成田が呟き、力は俺が聞きたいよと返す。
「まったく、すぐ悪目立ちするんだから。」
言っている場合ではない、美沙が200メートルの走者からバトンを受け取り走り出した。最下位から抜け出せていない1-5、美沙のすぐ前の走者との差は明らかで正直運動音痴の美沙が抜けるなんて兄の力でも想像がつかない。300メートル、トラック1周半をあのヒョロヒョロした体で走り抜けるのか。
ハラハラしている間に事態は劇的に進行した。おいあれ、と誰かが言った、最下位のが追い上げてるぞ。あれ何組、さっき放送で1-5っつってた、ちょっと待てあいつ、と2-4の中で動揺が走る。誰かがデカイ声で言った、縁下んとこの妹じゃねーかっ。
「縁下っ。」
「えええええええっ。」
成田が叫びしかし一番動揺したのは勿論義兄である力だ。信じられない。美沙が、運動音痴全開のあの義妹が猛追している。1-5からはこれでもかと声が上がっていた。
「美沙さああああああああんっ。」
谷地の声が一段と高い。見ている方が度肝を抜かれている中、美沙は歯を食いしばりそれこそ砂煙を上げながらぶっ飛ばしていく。これは大騒ぎだ、観覧席にいる生徒は勿論放送席で実況している放送部員にも影響した。余程混乱でもしたのか後で先生に怒られるであろう阿呆な実況をしている、大番狂わせきましたっここに来て1-5が猛追ですっ。力はそれどころではない。美沙が目の前の走者に迫る。1-5から悲鳴が上がる。気づけば力は席から立ち上がって叫んでいた。
「美沙ーっ、行っけええええええええっ。」
成田含め2-4の連中が一斉に力を見たが力はそれどころではない。義兄の声を追い風にしたかのように義妹が走る。そして1-5からの歓声が爆発した。
「1人抜いたあああああああああっ。」
谷地が感涙してるんじゃないかと思うくらい叫んでいる。
「美沙ーっ、でかしたあああああああっ。」
「いいぞっ縁下妹っ、マジでやりやがったああああっ。」
2-3と2-1もやはり一部うるさい。力は気づいていなかったが実は他も大概だった。