第9章 【義妹、宣言する】
「そっちもなんだけど」
「"も"かよ。」
冷や汗垂らしたような口調で木下が言い、力はでもどっちかってえとと付け加えた。
「あいつにしては大胆な事言ってるから大丈夫なのかなって。」
「心配しすぎじゃないのか。」
成田が言った。
「今まで体育の時間に美沙さんがぶっ倒れたなんて聞かないだろ。」
「あ、ああ、まあ。」
更に成田はそれにさ、と付け加えた。
「コンプレックスの塊の美沙さんが断言したってことはそれなりに自信があるんだろ。もうちょっと信じてやったら。」
にっこり笑った成田に言われて力はう、と唸った。
「何だ、また縁下に育児の指導か。」
遠巻きに見ていた澤村が呟いた。
「縁下も大変だなぁ。」
東峰は若干ずれた方向でしみじみと言う。
「過保護にする気持ちもわかんない訳じゃないけどさ。」
菅原はクスクス笑い、清水が呟く。
「美沙ちゃんも大変ね。」
「でもさ、お兄ちゃんウザイとか言わないんだから兄妹揃って大したもんだわ。」
菅原の止まらぬクスクス笑いを聞きつけた力は珍しく先輩を軽く睨んだ。
という訳で力が帰宅後の話である。
「兄さん、お帰り。」
いつもどおり力が二階へ上がると美沙が自室から出てきた。
「ただいま。谷地さんから聞いたよ、随分大胆な宣言したらしいな。」
美沙はそぉ、と首を傾げる。
「何とかなりそうやったから。」
「成田の言ったとおりだな。」
「また成田先輩は何を。」
「それなりに自信があるんだろうから心配するなって。」
「兄さんは一体部活で立場どないなっとんの。」
「さぁ。」
「ごまかしたっ。」
「何でもいいけど頑張って。」
疲れていた力は田中や西谷が馬鹿を言った時のごとく適当に言って部屋に引っ込んだのだった。
パタンと閉めたドアの向こうで美沙はむぅとした顔をしていた。
「あない言うてても信じてへんなぁ。ええもんね、私かてたまにはやったるもんね。」
義妹がそんな風に独りごちていたことを力は知らない。
次章に続く