第9章 【義妹、宣言する】
いきなりであるが体育祭が近づいてきた。その日、烏野高校のあちこちのクラスで誰がどれに出るだの自分はこれはヤダのなんのと賑やかに話をしていた訳だがその中でとあるクラスではちょっとした動揺が広がっていた。
「美沙さん、本当にいいの。」
動揺して呟く声は谷地仁花、つまりここは1年5組である。
「うん。」
聞かれて頷くのはご存知2年4組縁下力の義妹である縁下美沙だ。
明るく放たれたその返事に1-5の女子達は固まっていた。
勿体ぶらずにさっと事情を説明しよう。先程まで1-5の女子はスウェーデンリレーに出たい奴を走行距離順に決めていた。100メートル、200メートルと決まったところで300メートルを募(つの)ったらそれまでずっと大人しくしていた縁下美沙が手を挙げたのだ。1-5の女子達は義兄とは正反対である縁下美沙の運動音痴ぶりを知っている。故に失礼とわかりつつも谷地含めた彼女らは大変驚いたのである。
「ん、どうしたんだ。」
当の美沙は笑いながら皆を見回して標準語で言う。いつものあれだ、美沙からしてみればやりたいから手を挙げたというだけの認識である。
「美沙さん、本当にいいの。」
義兄属する男子排球部のマネージャーであり友人である谷地が恐る恐るといった様子で尋ねる。おそらくそれは1-5の女子の総意でもあっただろう。
「うん。」
美沙はあっさりと頷く。流石に心配したのか取りまとめていた体育委員が体力大丈夫かとまで聞いてきた。相当の事態である。ところが義兄の力をして半分ボケとされる美沙は更に爆弾を投下した。
「最低1人は抜くからさ。」
「ええええええええっ。」
友人である谷地が声を上げ、それを皮切りに1-5の女子達は若干の混乱に陥った。男子側は何事かとそちらに目をやりボソボソと言い合う、おい女子どうした、谷地が叫んでるぞ、あれじゃねーの、また縁下か。
「美沙さんっ、本気っ。」
「ガチでマジ。」
聞く谷地にこれまた美沙は断言した。
「私瞬発力ないから100とか200じゃ距離足りない。追い上げるなら最低300はほしいな。」