第8章 【外伝 鉄壁とエンノシタイモウト】
二口はほらよ、半分ボケと言いながら美沙にスマホを返す。
「完全に名前覚える気あらへんな、この人は。えと、あの、兄さん。」
「美沙、とりあえず場所わかったから歩いておいで、俺も今から行くから。」
「途中まで、付き合う。」
「青根さんが途中まで来てくれるて。」
「そりゃ心強いな。」
「ほな後でね。」
通話が終了し、縁下美沙はえーと、と二口と青根を振り向いた。
「すみませんけど、お世話になります。」
二口はむすっとして青根を見た。
「お前のせいで俺までこの半分ボケに付き合わなきゃなんねー。」
「無理にとは言ってない。」
「ふざけんな青根、てっめーっ。」
「えと、ほな行きましょか。」
そうやってでかい野郎共はどこか変わっているヒョロヒョロの女子と一緒に歩き出す。通行人が不思議そうに見ているがそれは見なかったふりだ。しばらくして義妹を迎えにやってきた縁下力が姿を見せた。一見写真の通り地味で大人しそうで存在感が薄そうだったが、二口は何となくこいつ侮れないと思った。
「ごめんよ、うちの美沙が。」
「気にする事はない。」
「俺はついでだからな、青根がうっかり関わったせいだからな。」
ブツブツ言う二口に縁下力は困ったように微笑む。
「でもちゃんと美沙がどこにいるか教えてくれたよな。」
「話が進まなそーだったからよ。」
「そう。あれ美沙、何か食べてるのか。」
「二口さんが飴ちゃんくれはった。」
「ホントありがとう。」
「べ、つ、にぃ。」
二口はそっぽを向いた。向く一瞬の間、縁下力が義妹の手を握っているのが見えた。そうまでして保護したいのか、この兄貴も大概だと思った。