第8章 【外伝 鉄壁とエンノシタイモウト】
そんな話をしていると急に縁下美沙がびくんと体を震わせた。あたふたと肩から下げたガジェットケースを探る。どうやらスマホに着信があったらしい。
「しもしも。」
何でひっくり返して言うのかと二口と青根はぶっと吹いた。
「美沙。」
「ふぎゃあああっ、兄さんっ。」
二口と青根は更に吹いた。通話音量を大きめにしているのか会話の内容が結構よく聞こえる。
「その反応、お前また寄り道してるな。」
「べ、別にえーやん、成田先輩にも自立促せ言われたんやろ。」
「それと遅くまでほっつき歩くのとは別、とっとと帰っといで。あ、ちょい待ち。」
「え、えと、迎えに来んでええよ。」
「問答無用。」
「ひいいいいい。」
穏やかに威圧する声、物凄く狼狽する縁下美沙、二口はここでふと思いついてニイッと笑った。
「で、お前今どこにいるの。」
「あの、」
縁下美沙が言いかけた所で二口は素早くそのスマホを奪った。
「あっ、ちょおっ。」
「ああ、もしもし。この半分ボケの兄貴ってお前。」
「どちら様ですか、て、あっ。」
言いながら兄の方は気がついたらしい。
「どーも、伊達工の二口でぇす。」
通話口の向こうでやっぱりとため息が聞こえる。
「初めまして、美沙の兄の縁下力です。それより何でうちの美沙が二口君と。」
「うちの青根が落し物拾ったついでに世間話が長くなってよ。随分妙な妹抱えてんな、お前。」
「よけーなお世話やっ、はよスマホ返してっ。」
「まあちょっと変わってるけどいい子だよ。それよりうちの子は結局今どの辺なのかな。」
「ああ、それな、ってお前暴れんなっもうちょいで返すからっ。」
「返してー、私のスマホーっ。」
「落ち着け。」
「青根さん、離してー。」
わあわあ言って青根に抑えられる縁下美沙をよそに二口は場所を伝える。
「まさか二口君達にまでうちの美沙がお世話になるとは思わなかったな。何でちょくちょく落し物してこーなるんだか。」
苦笑しているのが伝わる口調で縁下力が言った。
「つかそこまで過保護にすんならこんな半分ボケ1人でウロウロさせんなよ。」
「ハハハ、それじゃ学校も行けないよ。ところでそろそろ美沙にスマホ返してやってくれない。」
「おー。」